2度の顕微授精を経てたどり着いた陽性反応

こんにちは。

これは以下で紹介している一連の出来事の3つ目の記事です。

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タイミング法の結果が伴わない頃、妻の詳細な検査が進み2つの異常が見つかりました。(正確な発覚時期は異なります)

ひとつがチョコレート嚢胞。卵巣に起こる内膜症です。

もうひとつが子宮ポリープ。見つかったものは幸いにも良性のものでした。


どちらも明らかに不妊の原因となるもので、子宮ポリープについては日帰り手術で取り除くことが可能です。

一方で問題となるのがチョコレート嚢胞で、嚢胞のサイズが小さければ無視して経過観察となります。しかしサイズが大きい場合には生理の度に出血量が増え、突然破裂するなど場合によっては命の危険も出てきます。そのためサイズの大きな嚢胞は当該部位を摘出する外科的療法が行われます。

妻の場合はこの大きさが微妙なものでした。今摘出しなくても命に別状はありませんが、おそらく不妊の一因です。しかし嚢胞の摘出=卵巣の切除であるため卵巣機能の大幅な低下となり、妊娠の可能性も低下します。

結果的にチョコレート嚢胞は経過観察となりました。なおチョコレート嚢胞は疾患していたとしても妊娠することで生理が止まり、症状の進行も止まることが知られています。


ということで2度の手術で子宮ポリープを取り除き不妊治療を開始してから3ヶ月ほどが経った頃、私たちは次のステップ人工授精へ進むことになりました。

人工授精の方法は「精子を採取して人工的に子宮へ送り込む」という処置が行われます。最初の検査とは異なり、受精に使用する精子は朝イチでプラスチック容器に入れたものを密封して持っていけばよく、男性が病院に行く必要はありません。

私は治療を受ける前「人工授精」 という字面から先進的な医療手段なのかと思っていましたが、受精・着床は自然任せであり、病院によれば自然妊娠に至らなかった夫婦が人工授精で妊娠する確率はたったの6%という説明がありました。

そのため最初から期待はしていませんでしたが、2度の人工授精でも結果が出ることはありませんでした。


人工授精もダメだった私たちは、ついに最終ステップ顕微授精に進むことになりました。顕微授精はざっくりと次のステップで行われます。

  • 卵子を体外に取り出す(採卵)
  • 取り出した卵子に細いガラス管を差し込み、採取した精子を送り込み受精卵を作って育てる(培養)
  • 十分に育った受精卵を子宮へ戻す(移植)

顕微授精の優れている点はこれまでのタイミング法や人工授精とは比べ物にならないほど、妊娠の確率が高いことです。(後述しますが病院の資料には「妊娠に至る確率は40%」という記載がありました。)

また一度に複数の卵子を採卵し正常な受精卵として培養(*1)できれば、子宮に戻す1つ以外は冷凍保存が可能です。最初の治療で着床に至らなくても、次は採卵せずに冷凍した受精卵(凍結胚)を使うことができます。

このように非常に繊細な医療行為であるため、病院の体制も高度化されています。受精卵の培養は”培養士”と呼ばれる専門家が担当します。また受精卵は冷凍機で保存されるため、病院には停電に備えた自家発電装置が設けられ、緊急時の受精卵保全のため24時間365日常に培養士に連絡がつながるようになっています。


ただし顕微授精はその分だけリスクを伴います。

まず治療を受ける女性への負担です。特に採卵は激痛を伴うと言われ、実際に私の妻もこれまで経験したことのない痛さだったと言っていました。出産を経験した今でも「瞬間的な痛みは陣痛や分娩よりもよりも上だ」と言うほどです。また受精卵を子宮へ戻すためには母体の体調を万全にする必要があり、移植日までの間は1日複数回の自己注射による投薬が必要です。この注射は毎日同じ時間に打つ必要があり、妻は平日日中は会社のトイレで打っていたようです。

家で痛そうにお腹に注射を打つ妻を見るのは、心臓を締め付けられるようでした。


次に経済的な負担です。顕微授精は基本的に保険の適用が効きません。採卵、培養、移植の過程には様々な医薬品や機器の使用、医療行為が伴います。これらは回数や治療内容にもよりますが1回で数十万単位の費用がかかります。

顕微授精による妊娠率は確かにタイミング法や人工授精よりも高いものの、絶対ではありません。不妊で苦しんでいる方のブログを見ていると、病院も移り変わりながら複数回の移植を受けている方もいらっしゃいます。成功するか何の保証もないギャンブルをしているかのような気持ちになります。


最後に精神的な負担です。タイミング法や人工授精は言ってみれば「可能性は低いけどとりあえずやってみよう」というものですが、体外受精や顕微授精は違います。期待値が高い分、ダメだった場合の心理的ダメージは大きくそれまで以上に落ち込むことになります。

そしてここまで来ると、もうこれしかありません。ゴールが見えない道をどこまで進んでいくのか。ただしゴールは見えなくても、現実問題として女性が出産可能な年齢には限界があります。不妊治療を受ける夫婦は高齢である可能性が高いため、”ちょっと立ち止まって考えてみる”という時間が過ぎるばかりの選択も難しい。

進むか止まるか諦めるか、その判断を夫婦で下していかなければなりません。



これらの理由から、私たちが治療を受けた病院では体外受精・顕微授精に進む前に必ず説明会への出席が必要になりました。説明会は完全予約制で、オフィスビルの広いホールを貸し切って行われました。実際に行ってみると満席で、80組ほどの夫婦が参加していました。

改めて「あぁ、こんなにいるんだ」と思いました。不妊という問題に直面せずに済んだ人たちは、このような説明会があることは想像すらしないのだろうと。実際私も不妊治療を受けるまでは、こんなにたくさんの人が、決してポジティブな気持ちにはならない話を聞いていることを考えたこともありませんでした。

説明会では術式の詳細、起こりうるリスク、具体的な移植スケジュールの例、経済的な負担、心理的な負担に備えたカウンセラーの紹介など、ありとあらゆる面からの説明が行われました。


私たち夫婦は具体的にいつまで顕微授精を続けるのかを話をしていませんでした。最初から「〇〇回ダメだったら諦めよう」とスッパリ決められるほど単純な問題ではありません。今後の人生にずっと付きまとう決断をしなければならないのです。

「とりあえずやってみなきゃ分からない!」ということで、説明会に参加した私たちは、不妊治療を開始してから約8ヶ月後のタイミングで1回目の移植を受けることになりました。

説明会の資料には「受精卵のグレードにもよるが、顕微授精で妊娠に至る確率は40%」との話がありました。やはり人工授精と比べても桁違いの確率の高さです。

私は「ひょっとしたら1回目で成功するのでは?」とつい楽観的になっていました。


しかし現実はそう甘くありません。判定日を待つ前に妻に生理が訪れました。妻も私も、明らかに落胆していました。

そして「次どうするか」を決めなければなりません。幸い最初に培養した受精卵は、複数が”グレードA”の優良胚として凍結されているため採卵せずに次の移植にチャレンジすることができます。ただし毎月毎月移植ができるわけではありません。移植は母体の体調を整えるなど様々な準備を必要とするため、1度移植を行ってから再度チャレンジするのに2,3ヶ月ほど期間を空ける必要があります。

妻の35歳の誕生日が目前に迫る中で妊娠に至らなかったということもあり、「いつまで続けるんだろう」という気持ちが出始めていました。


またこの頃の悩みとして「はしかのワクチンをどうするか」というものがありました。妻は不妊治療の血液検査で「はしかの抗体が低い」との検査結果が出ていました。当然ワクチンを打つに越したことはないのですが、ワクチンを接種した場合、次の治療まで2ヶ月間隔を空ける必要があります。

妻は事前にはしかの予防接種を予約していたのですが、ちょうど日本国内はしかが流行していた時期で、ワクチンの取寄せに時間が大幅にかかっておりまだ接種できていない状況でした。その待っている期間と接種してからの2ヶ月という期間は、妻の年齢も考えれば非常に惜しい長さに感じていました。


結局私たちは

「もう一度移植してみて、ダメだったらはしかのワクチンを打つまでお休みして、考えよう」

という結論になりました。

結果として2回目の移植で陽性反応が出ました。


妊娠検査薬の陽性を見た妻がニコニコしながら「検査薬って本当に陽性って出るんだね」と言ったのを良く覚えています。

不妊治療を開始してから1年、妊活を始めてから2年8ヶ月が経った頃でした。


一通りの不妊治療を通して感じたことは女性への負担が尋常ではないということです。

男性は精子を取られるぐらいであるのに対し、女性の検査は痛みを伴うものもあります。また日本の出産年齢が高齢化する中で不妊治療専門病院は待ち時間が長く、体力も時間も使います。

さらに顕微授精などは移植のタイミングを見極めるために頻繁に病院へ通う必要があるため、他人に知られたくなくても全く秘密にすることは難しいです。妻も会社の上司には不妊治療を受けていること、そのため急遽抜け出したり予定通り戻ってこれなかったりすることを伝えていました。事実、半休で午前に病院の予約を入れても診療が終わらず、午後に遅刻して会社へ行くことが何度もありました。

このように肉体的、精神的負担が大きい中での妻の苦しみや努力を考えると、感謝してもしきれません。


また体外受精や顕微授精まで進むと経済的な負担も計り知れません。私たちは本当に運良く2回目の移植で妊娠に至ったため、不妊治療に要した金額は通算130万円ほどで済みましたが、小さい出費ではありません。

自治体によっては助成制度もあるものの、普段の医療費とは比べ物にならないほどお金がかかります。私の住む自治体では妊娠後の定期検診はほとんど無料で受けることができますが、不妊治療への助成は条件が高く受けることができませんでした。

妻は妊娠後に「妊婦さんはは制度が手厚くていいよね……」とぼやいていましたが、正直「妊娠するかしないか分からない1組よりも、妊娠した9組を助けるために税金を使ったほうが効率的だろうな」と冷静に考えてしまう自分が嫌になります。


不妊治療には「コウノトリが赤ちゃんを運んできてくれる」などというフワフワした希望はありません。そこにあるのは真っ暗で終点の見えない長い道のりです。

「それに耐える夫婦のことをもっと考えろ!」などと言うつもりはありませんが、せめて「子どもは作らないの?」といった悪意の無い言葉が人を傷つけるかもしれない、ということがもっともっと世間に浸透していけば良いなと思います。

また何の問題もなく子どもを授かれることは本当に幸せなことです。私も若い頃はいわゆる”できちゃった結婚”に対して「ズッ◯ンバッ婚wwww」などとバカにしていましたが、不妊治療を通して「結婚するより前から問題なく妊娠できると分かるなんて、なんて素晴らしくて合理的なんだろう!」と考えるようになりました。

まあこの考えは極端かもしれませんが、それだけ自然妊娠できることは幸せなことなんだと、本人たちだけなく周りが当たり前に考えられるようになればいいな、と思います。


とにかく、妻の努力と幸運により私たちは生命を授かることができました。

そしてこの時は「ようやく子どもがいない辛さから開放されるんだ」と思っていました。しかし、本当の地獄はここからが始まりだったのです。

*1:ただし受精できたとしても、正常な胚として成長するかは分からない。胚の成長度合いは”グレード”としてAからDまでの評価が下される。基本的に移植できるのはAとB。