静かに始まった地獄へのカウントダウン

こんにちは。

これは以下の出来事の6つ目の記事です。

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入院から1ヶ月ごろ

担当医が変わった

妻が絨毛膜下血腫による3度目の切迫流産で入院してから早くも1ヶ月が経過し、気づくと年が明けていました。

この年末年始にかけてちょっとした出来事がありました。それは妻の担当医が変わったことです。

入院当初から担当は男性の医師でしたが、その方が別の病院へ転勤することになり新たな担当として女性医師がやってきました。ところがこの女性医師は(妻からすると)とても冷たくて恐い先生だったようなのです。

それまでの男性医師は質問したことには丁寧に答え、気になることを訴えれば診察してくれるなど、親身に対応してくれていました。また退院について時期は分からないながらも、プランを考えてくれているようでした。ところが今回の女性医師はとにかく話し方が突き放したような説明であり、加えていつ頃退院できるか?との質問に対しても「そんなことは分からない」というような回答だったそうです。

私は「同じ女性だからこそドライになるのかな」と、楽天的に考えていました。ですが今思うと、妻が抱いたこの不安こそが後に起こる危機的状況を暗示していたような気がします。

22週の壁

年が明けてからの妻の経過はとても順調でした。点滴の量は週を追うごとに減っていきます。そして気がつくと妊娠週数は22週に達していました。

妊娠生活において22週は大きな意味を持ちます。それは「22週は法的に分娩可能な週数」ということです。これまで”切迫流産”と呼んでいたものは”切迫早産”となり、”流産”は”死産”になります。


切迫早産の妊婦さんはここから、22週→25週→28週→30週→32週→34週という区切りで在胎週数を1週でも1日でも多く伸ばしていくことを目標とします。

この区切りは胎児の内臓や器官がおおよそ完成される時期に基づいています。そして「法的には22週から分娩可能」とは言っても、実際に22週で出産するのと34週で出産するのでは天と地ほどの差あがあります。それはそもそもの救命率と助かったとして後遺症が残る可能性の大きさです。当然、早い週数で生まれるほどその危険は増します。


妻は在胎週数を常に意識していました。私も週数は長ければ長いほど良いということを理解していましたが、この時点では

「何だかんだで順調だし、入院が長引いたとしても予定時期付近で生まれてくれるだろう」

と、またも根拠なく思い込んでいました。

入院から1ヶ月半頃

切迫早産の原因は?

この頃になると妻は部屋の中はおろか病棟内でも一番の古株となっており、周りの患者さんとも話をするようになっていました。その中で一つわかったことがあります。

切迫早産で入院してくるほとんどの患者さんは定期検診に来た際に「子宮頸管長が短い」ことで緊急入院していました。子宮頸管長が在胎週数に対して短いほど子宮口が開いてしまうリスクが高い、ということになります。例えば妊娠24週時点での子宮頸管長の平均的な長さは3.5cmほどで、これが2.5cm未満となった場合には管理入院が必要と判断されます。

対して私の妻の子宮頸管長は妊娠22週時点で4cmと十分な長さがあり、その話をすると他の患者さんに「なぜ入院しているの?」と不思議がられました。出血が原因で入院となるのは少数派だったようです。

退院の兆しは地獄へのカウントダウン

病院内で話相手も得て点滴も順調に減っていき、妊娠24週のある日、ついに点滴を外すことになりました

「これで外して問題なければ内服に切り替えて、来週か再来週には退院できると思う」

と女性医師から話があったようで、妻は非常に喜んでいました。


ですが点滴を外したその日、妻は軽い腹痛を感じていました。看護師に尋ねると「点滴(ウテメリン)を外した直後は”張替えし”と言って腹痛が起こる。そのうち治まるので問題ない。」と説明されたようです。

しかし夜になるとその痛みは断続的になり妻は再度看護師に訴えました。看護師は「分かりました。寝る前にNSTしてみましょう。」と答えたそうです。NSTノンストレステスト)”とは胎児の心拍や母体の子宮緊縮具合を確認する検査のことで、当時入院していた病院では週に1度行っていました。

ところがその後、看護師は結局現れませんでした。女性医師の態度や「お腹が痛いと言ってもお腹をさするだけで何もしてくれない」と以前から看護師に不満を感じていたことから、妻はこの時も「どうせ診てくれないだろう」と諦めてそのまま寝ることにしたようです。

お腹の断続的な痛みは一晩中続き、明け方頃に治まったそうです。


お腹の痛みも治まった、点滴を外した翌日。念の為、再び医師による診察が行われることになっていました。診察を終えた妻からのLINEには、

「子宮頸管長が1.2cmまで縮んでいて、点滴再開になった。」

とありました。

子宮頸管長1.2cm。2.5cm未満が入院の目安であり妻はこの時まだ妊娠24週。誰がどう見ても異常な短さです。ついこの前まで「子宮頸管長は4cm以上で余裕」と言っていたのに突然3cm近くも縮んでしまったことになります。

素人目に見ても異常な数字のため、同室の患者さんたちからは「誤診なのではないか?」と言われたそうです。また妻も担当医師に「もう一度調べて欲しい」とお願いしたそうですが、「ここでは週に1度だけ診ることになっているから、できない」という謎の理由で却下されてしまいました。なおインターネット等で調べた限りでは「子宮頸管長を調べるための超音波検査を頻繁に行うとそれが刺激となり、頸管長を縮めかねない」という記載もありました。ただ、それならそうと「決まりだから」ではなくこちらが納得できる説明をしてほしかったです。


この異常事態を目の当たりにした妻は

「もう退院できなくていい。とにかく点滴を刺して34週まで持たせる。」

と決意を新たにしていました。退院できるかもしれないと期待していただけに、急な容態の変化でがっかりはしていましたが、この頃にはベッドのカーテンをフルオープンにして同室の患者さんたち全員でお話するようになるなど、辛い入院生活の中でも楽しい時間ができていました。



しかしこの時、楽しい時間は残すところあとわずかとなっていました。私たち夫婦にとっての地獄へのカウントダウンは静かに始まっていたのです。