住宅購入時の登記は現住所と新住所どちらでおこなうべき?グレーな問題をまとめてみました

こんにちは。

2020年、私は住宅購入にあたり様々な初体験をしました。たぶん最初で最後になるであろう住宅関係の手続きは知らないことばかり。

その中で最も戸惑ったのが『不動産登記を現住所 or 新住所どっちでやる?』問題です。

  

インターネットで「登記 住所」などと調べるとそのほとんどが新住所での登記を勧めています。

私自身が住宅ローンを組む際にも不動産屋、ハウスメーカー司法書士、銀行の司法書士のみなさん、当然のように新住所での登記を勧めていました。唯一「どっちでも良い」という態度だったのが借入先の銀行担当者でした。

最終的には自分なりに現住所と新住所の登記の違いを調べ、現住所で登記をしました。

  

でも、なんでみんな新住所の登記を勧めるのでしょう。なぜやり方が統一されていないのでしょう。自分で現住所と新住所による登記の違いを調べた結果「本来現住所での登記が正しいがメリットが無いので新住所で登記する」という、とてつもないグレーな結論にたどり着きました。

基本的には言われるがまま新住所で登記しても問題になることはありませんが、「いやいや自分のことだし気になるでしょ」という方のために私なりに調べて体験した現住所/新住所による登記の違いや、なぜ新住所登記が勧められているのかについて説明していきます。

※注意
私は不動産の専門家ではありません。あくまで素人が自分で調べて経験したことをベースに書いていますので、最終的な確認や判断はご自分の責任でお願いします。

また記事内の税率等は2020年10月現在の情報で記載しています。

”べき論”で言えば現住所登記ですべき

まずはじめに結論からです。

登記の住所に現住所=住宅購入時の住所を使うか、新住所=購入した家の住所を使うか。メリット・デメリット抜きにして本来どうすべきかという観点のみで言うと現住所で登記すべきです。

その唯一にして最大の根拠が「新住所で登記する場合はほぼ間違いなく方に抵触している」からです。

新住所で登記するためには住宅ローンの契約前に住民票の移動が必要

住宅ローンによる住宅購入は必ず「不動産の引渡し日=住宅ローンの融資実行日」となります。そして住宅ローンの融資はお金を借りる側と貸す側で、金銭消費貸借契約(通称"金消契約")を結ぶことで成立します。

この金消契約の契約日はもちろん融資実行日です。そしてその書類は通常遅くとも融資実行の5営業日前をめどに銀行が作成します。その契約書には契約日時点の借り主の住所が明記され、その証明のために前もって銀行に住民票を提出しなければなりません。

登記までのスケジュール:w=800

また金消契約が成立すると司法処理はその日のうちに不動産登記(所有権をハウスメーカーから購入者へ移転する”所有権の移転登記”、住宅ローンの担保としてマイホームに担保を設定する”抵当権設定登記”)を行いますが、これにも借主の住民票が必要です。

つまり借主は新住所で登記を行おうとするならば、不動産の引き渡し日=住宅ローンの融資実行日、もっと言えば金消契約書が作成される前までには住民票を新住所に移しておく必要があります。

引越し前の住民票移動は住基法で禁止されている!!

しかし考えてください。当然引き渡しが終わっていない家に引っ越すことはできません。つまり新住所登記は「実際にはまだ住んでいない家の住所に住民票を移す」必要があるのです。

そして実際にまだ住んでいない家に住民票を移すのは住基法第52条による罰則規定があります。つまり犯罪です。

第五十二条 第二十二条から第二十四条まで、第二十五条又は第三十条の四十六から第三十条の四十八までの規定による届出に関し虚偽の届出(第二十八条から第三十条までの規定による付記を含む。)をした者は、他の法令の規定により刑を科すべき場合を除き、五万円以下の過料に処する。

e-Gov

要するに新住所で登記する人は全員、この住居法に抵触しているわけです。

もしこれを完全にクリアして新住所登記をしようとすると、 - 融資当日に住民票を移す - その直後に新しい住所の住民票を司法書士、銀行へ提出 - その直後に金消契約書を作成してもらい、即時融資を実行してもらう - その後、当日中に引っ越しする

というおよそ不可能なタスクをクリアした人だけです。

なぜほとんどが新住所登記なのか

ではなぜ新住所登記はほぼ確実に法に抵触するにも関わらず、ほとんどが新住所登記で行われているのでしょうか。

理由1.実際に罰せられるとは考えにくい

新住所登記は犯罪と書きましたが、その一方で実際に罰せられるのは考えにくいのです。だからこそ新住所登記がごく自然に行われています。

なぜなら「本当にその人がその住所に住んでいるか?」なんて自治体の職員は確認しないからです。異動届を受け取る際に「すでにこちらにお住まいですね?」と口頭で確認するのみです。その後実際に家を視察したりはしません。暇じゃありません。

ローンを借りてから1年以上引っ越していない、ぐらい極端であれば何かのきっかけで判明するでしょうが、1ヶ月程度であればほとんど問題になることは無いでしょう。

また仮に何かのきっかけで虚偽が判明したとして、住宅ローン債務者のほとんどが新住所登記している現状を考えると、自治体職員がわざわざ問題として取り上げるのかも疑問です。

要するに新住所登記は届け出者と自治体との間で、暗黙の了解が成立しているのです。

理由2.新住所の方が登記費用が安い(ただし誇張されている)

新住所登記が暗黙の了解で許されているとしても、明確なメリットが無ければ現住所登記のほうが無難です。

そう、新住所登記にはメリットがあるのです。それが「新住所登記の方が登記費用が安い」というものです。

これ嘘ではないですがサイトによっては「新住所で登記しないと数万~数十万損する!!」としているところもあり、ちょっと誇張しすぎな部分もあります。

  

実際のところ現住所登記であっても必要な手続きを行えば(新住所登記と比べて)数千円程度の損で済みます。ではここから、「新住所登記のメリット」と謳われているカラクリを説明していきます。

新住所登記のメリットとその誤解

登記後の住所変更に費用がかかる?

1つ目として「登記が終わった後に新住所へ変えなければならず、その費用が数万円」というのが目立ちます。

  

ここで注意したいのは数万円かかるのは住所変更の登記(表題登記の変更)を司法書士に依頼した場合です。

登記の変更は特に資格が無くてもできますので、自分で時間を確保して足を運べば土地と建物それぞれの収入印紙代1,000円、計2,000円で住所は変更できます。*1

また実際には登記情報の住所変更は必ずやらなければならないものではありません。やらなくても犯罪にはなりませんし義務もありません。必要になるのはその物件を売却に出す、などの特殊なケースです。

  

もちろん登記後に住所を変えておくに越したことはありませんし、自分で住所変更する費用対効果を考慮しても数万円損と考える人もいるでしょうが、住所変更が必須ではないことも考慮せず司法書士手数料ありきで損得を決めつけるのはナンセンスではないでしょうか。

登録免許税が軽減されない?

2つ目は「新住所であれば登録免許税の軽減が受けられるから」という理由です。

『登録免許税』ってなんだろう

では『登録免許税』とは何でしょう。

登録免許税は不動産を登記した際、登記者に対して課せられる税金です。新築建売であれば対象不動産の価額に対して、土地の所有権移転登記に1.5%*2)、建物の保存登記で0.4%住宅の抵当権設定登記で0.4%が課せられます。

土地の登録免許税:w=800

建物の登録免許税:w=800国税庁より

例えば土地1,000万円、建物2,000万円の家を全額ローンで購入した場合は

土地の登録免許税=1,000万円×0.015=15万円

建物の登録免許税=2,000万円×0.004=8万円

抵当権設定の登録免許税=3,000万円×0.004=12万円

で計35万円となります。思った以上にかかりますね。

  

そこで軽減措置が用意されており建物は0.15%、抵当権設定は0.01%に圧縮されます。

すると、

建物登録免許税=2,000万円×0.0015=3万円

抵当権設定の登録免許税=3,000万円×0.001=3万円

計21万円、軽減前と比べて14万円ほど負担が軽くなりました。

  

この軽減措置を受けるためには『住宅家屋証明書』つまり「この不動産は自分が住むための家です」というのを証明するための書類を自治体に発行してもらう必要があり、そのためには登記者の住所が対象不動産の住所と一致している必要があるのです。

登記はローン融資当日に司法書士が行いますから、やはり事前に住民票を移しておく必要があります。

現住所で軽減措置が受けられないとは言っていない!!

たしかに登録免許税で軽減される金額は見過ごせません。

しかしここで注意したいのは「現住所で軽減措置が受けられない=住宅家屋証明書が取得できない」とは一言も言っていない、ということです。

  

現住所登記の場合には自治体に対して入居が遅れる理由と入居予定日を記した申立書と、今住んでいる物件の賃貸契約書や売却の媒介契約書司法書士経由で提出することで、住宅家屋証明書の発行を受けることができます。

どうもここで司法書士の手数料が追加になるようですが、実際に現住所で手続きした私の請求書内訳を見る限りでは数千円程度と思われます。

つまり現住所登記であっても若干の手間と手数料で登録免許税の軽減措置は受けることができ「現住所登記は数万円~数十万円損する」という認識は誇張し過ぎなのです。

  

ただし自治体の申立書の入居予定日は「引渡し日から遅くても2週間以内」と書かれているケースも多く、引越自体はあまり先延ばしにしない方が良いのは間違いないです。

理由3.関係者がそう言うから

3つ目の理由は私の推測になりますが、実際のところ初めて家を購入する当事者は違法性や軽減税率なんてものは頭になく、不動産屋や銀行の言われるがままに新住所登記をしている、というものです。

なぜなら購入者はその辺は気にしなくても勝手に対応してもらえるからです。

  

私自身の体験では記事冒頭でも述べたとおり「不動産屋は新住所登記を勧めてきて、銀行はどっちでもいい感じ」だったのでその時は分からなかったのですが、インターネットやSNSなどで調べてみると、新住所登記で実務的に楽になるのは銀行のローン担当者(住民票等の本人確認が1回で済む)ため、特に銀行が「原則新住所登記です」とするケースもあるようです。

  

ちなみに私の借入先銀行は「住所移した後に世帯全員分の住民票を出してもらえれば問題ありません」という感じでした。

一方で不動産屋は私から事前に現住所登記と連絡していたにもかかわらず、金消契約書の作成が終わった後に「え、登記って新住所じゃないんですか?めっちゃお金かかりますよ?」と煽った挙げ句、契約書の作り直し等面倒だしもういいよと半ギレ気味に回答したら「なんか今の賃貸契約書とか出せば税金抑えられるらしいっす」と言ってきました。

なぜ説明が前後したのかは不明ですが、費用が上がる理由を分かっていて言わないのも、単純に分からなかったのかもプロとしていかがなものかと思います。

まとめ:現住所登記はたしかに手間がかかるがめちゃくちゃ損するわけではない!

少し長くなりましたが新住所と現住所登記の違い、そして現住所登記は本当に損するのか!?という観点で私自身の経験を交えてご紹介しました。

まとめると、以下のとおりです。

  • 新住所登記は厳密には違法だが暗黙されていて基本的には問題にならない
  • 現住所登記はたしかに手間がかかり新住所登記に比べてのメリットは少ない
  • ただし現住所登記でもしっかりと手続きすればめちゃくちゃに損することはない
  • 不動産屋や銀行は教えてくれないこともあるから、事前勉強が大事

住宅購入というのはほとんどの人にとって人生で1回きりのイベントです。しかしその一方で登記については学校で教えてくれるわけではなく、取引相手である不動産屋や銀行も丁寧に教えてくれるとは限りません。

だから自分で勉強して、何でも質問できる知識を身につけておくのが大切ですね。(といっても、夢のマイホームを目の前にしてそれをほっぽり出してしまうのが現実なのですが……)

この記事がこれから住宅購入される方の一助になれば幸いです。

*1:正確には郵送代や住民票取得の手数料もかかります

*2:2021年4月1日以降は2%