おじさんは、いつまで美容室に通うんだろう

こんにちは。

今回はいつもと違う文体でお送りします。



この前美容室に行った時、ふと「自分はいつまでこの美容室に通うんだろう」と思った。


私の通う美容室はそれなりに大きい店舗で、客層も男女半々、下は小学生から上は40代くらいまでと、安定感のあるお店だ。

とは言ってもやはり多いのは若い女性と男性。対して私は現在30歳。私の中で30歳男性は立派なおっさんである。40代くらいの客は殆ど女性だ。40代になってさらにおっさんになった私は、変わらずこの美容室に通っているのだろうか。


私がこの美容室に通いだしたのは就職して今の街に引っ越して、少し経ってからだった。特に強いこだわりがあるわけでは無かったが、おそらく担当してくれた男性美容師が、他に行ったお店よりも話しやすかったからだと思う。結局そのお店に固定し、6年以上同じ男性美容師に担当してもらっている。

と言っても、そんなに深い知り合いになったわけでもない。彼の年齢を聞いたことは無いし、結婚しているのかも知らない。趣味が何なのかも分からない。髪を切りに行けば「先週温泉に行っ」たとか、「この前風邪を引いた」とか、「今日は天気が悪い」とか、当たり障りの無い話をしている。だが、それで良い。大して気を使うこともないし、この数年担当してもらった結果、少なくとも私としては話が続かなくても気にしないぐらいに気楽な相手にはなった。

さらに私は特にここ数年、自分のヘアスタイルにこだわりが無く、不潔でなければ良いと思っている。そして今どきの美容室は、髪を切り終わったら写真とともに私のカット情報を保管している。だから「この前と同じで」「少し短めに」「バッサリ」というとても抽象的なオーダーが通用する。そして担当美容師が適当にカットしてくれる。

楽だ。

一生懸命イメージして言葉で伝えなくても良いし、若かりし頃の「この写真みたいにお願いします!」と言って似合ってもいないオーダーをすることもなく、「夏っぽく!」という分けのわからない言葉を発することもなくなった。


実は3年ほど前、担当の美容師がそれまでのお店から、同じグループのもっと大きなお店に異動することになった。(この時彼は店長になっていて、栄転だったのかもしれない。)

ここで私には「今までのお店に通う」か「彼の異動先に付いていく」か、という2択に迫られた。地理的には前のお店の方が近かったのだが、結局私は新しいお店でまた同じ美容師さんにお世話になることにした。

理由はこれまでに記した内容でわかっていただけると思う。また新しい美容師と一から、(少なくとも私から見て)面倒ではない関係を作るのが非常に億劫だったからだ。


ここで標題の件である。前回は距離的にそんなに遠くもない店舗に異動になった、担当の美容師さん。だけれど、これが県外への異動だったら?あるいは独立して地元に店を構える、海外に出る、とかだったら?

もちろん、私は付いていかない。当たり前だ。婚約者じゃないんだから。

だがその時私は、そのまま同じ美容室にお世話になるんだろうか?店員も客も若返っていくであろう美容室で、ひとり老けていくおじさん。その孤独に耐え前向きに新しい関係を気付くのだろうか?それとも無難に『カットマン』などのチェーン店に鞍替えするんだろうか?

おじさんが美容室に通うことを悪いと言うつもりは微塵も無い。もしも私が、ファッション雑誌に出てくるような革ジャンを着て、大きな外車を乗り回し、サーフィンや釣り・キャンプに性を出す、「遊びの達人」という謎の称号を持ったオヤジだったら、気にしないかもしれない。むしろダンディで人生経験豊富な大人の男として、若い人と良い関係を築けるかもしれない。しかし残念ながら私がそのようになる見込みは1ミリも無い。ただ歳を取ったおっさんとして、知り合いもいないあの空間に居続ける未来は、想像が付かない。


じゃあ逆にだ。今の担当美容師が、ずーーーーっといたとして、私もずーーーーっとその人にお世話になり続けるんだろうか?担当美容師の年齢をまともに聞いたことは無いが、私が大学を出て初めて会った時、既に「トップスタイリスト」的な肩書であった彼は、私とさほど年齢は違わないはずだ。ということは、彼にお世話になっている限り、私たちは等しく歳を重ねていくのだから、今のちょうど良い距離感を保つことができるのでは無いだろうか?

いや、そうとは言い切れない。なぜなら彼の客は私だけではない。競争が激しい美容業界に身を置き、客や従業員含めて私よりも圧倒的に多くの人と、日々関わりあっているだろう。同じように歳を取っていたつもりが、(良いとか悪いとかではなく)乖離が生まれ、これまでのように気楽にコミュニケーションを取れるかは分からない。

というか、そもそも同じ職場にい続けているからといって常にお店に出ているかは分からない。裏方に回って新人の育成や、あるいは経営側に回る可能性だってある。


そう考えると近いか遠いかは分からないが、いつかは今の美容室から、あるいは美容師さんから離れる時が来る。その時私はどんな決断下すのだろうか。答えはその時が来るまで分からない。

指名力: 一度会っただけで熱狂的なファンに変える

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