こんにちは。
私の職場は業界柄*1、たくさんの”派遣社員さん”と”委託社員さん”がいらっしゃいます。社員よりも多いくらいです。
で、みなさんは『派遣』と『請負』(または委託)の違い、きちんと理解されているでしょうか。
「なんとなーく違う」くらいの認識は社会人であれば誰でも持っていると思いますが*2、『派遣』『請負』が正しく行われているかをきちんと認識していないと、いざという時に”違法な請負”に巻き込まれる、最悪の場合加担しかねません。
今回は厚生労働省の資料「労働者派遣・請負を適正に行うためのガイド」(平成27年3月版)を参考に『派遣』と『請負』の違いについて基本的な点をまとめてみました。
※以下に示すものは私が個人的に「かいつまんでまとめた」内容です。基準の内容や言葉の定義については必ず各自でご確認ください。
『派遣』と『請負』の違い
『派遣』と『請負』はどちらも「外部企業の仕事を自社の労働者によって遂行し、その対価をもらう」という業務形態です。
では何が違うのかと言えば 目的が異なります。そして目的が異なるため指揮命令権の所在が異なります。
派遣の場合
目的は『労働力』の提供
派遣契約は「労働力」を提供します。これはつまり「働いた時間分の対価が発生する」ということです。
成果に関わらず派遣労働者が残業した分だけ派遣先企業は残業代を払う必要があります。
労働者への指揮命令は派遣先が行う
働いた時間分の対価が発生するため、指揮命令権は派遣先の企業にあります。業務の遂行に当っては派遣先企業が派遣元の労働者に対してあれこれと指示を出します。
『請負』の場合
目的は「成果物の提供」
請負契約で提供するのは「成果物」です。これは注文企業からすると、誰が何時間働こうが関係無く、最終的に納品された“モノ“に対価を支払うことになります。
労働者が10時間働こうが100時間働こうが同じクオリティの成果物が納品されれば支払う金額は同じです。
労働者への指揮命令は請負元が行う。
このため請負契約の場合、指揮命令権は請負元の企業にあります。請負元は責任をもって定められた品質の「成果物」 を提供する必要があり、責任を持っているのだから仕事に対する裁量も請負元企業が持って然るべきです。
『請負』であることの基準
目的が異なるため指揮命令の所在が異なる『派遣』と『請負』。
その違いを区別するための基準として「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区別に関する基準(昭和61年4月17日労働省告示第37号)」が策定されています。
この中で定義された基準をザックリとまとめると、
- 請負労働者は請負元企業がきちんと管理する
- 請負業務を独立して遂行できる企業である
という2つの条件を満たす場合に『請負』と判断されると言えます。
請負労働者は請負元企業がきちんと管理する
まずは1つ目、「請負労働者の仕事は請負業者が管理する」という点です。これをさらに細分化します。
業務の進め方
請け負った仕事を「どのようなスケジュールで」「どのくらい人を割り当てて」完遂するのかを請負元企業が決定することを意味します。
注文企業との契約はあくまで「成果物の納品期限」であり、「この工程は◯日までに完了させて」「ここの作業は3人でやって」「毎週火曜日に報告書を提出して」などという細かな指示を出すことはできません。
それはら全て請負元企業が決定し、請負労働者へ指示する必要があります。
これらの理由から注文企業と請負元企業の管理者(指揮命令を出す人)は迅速に連絡を取れる体制が必要であり、客先常駐の請負においては客先に請負元企業の管理者も常駐するケースがよく取られます。
この時「1人で労働者と管理者を兼任する」ことは認められません。なぜならそのような体制は「事実上、注文企業が指揮命令を出している」と判断されるためです。
必ず「請負元企業管理者」と「請負労働者」の2人以上の体制が必要になります。
人員配置
これも業務の進め方と似たような話ですが、誰をその仕事に割り当てるかは請負元企業が決めなければなりません。
注文企業からは「◯◯のスキルを持った人」などの要望を出すことはできますが、「◯◯部の◯◯さんお願い!」や「事前に面接を実施する」など人員を指名・選定することはNGです。
請け負った仕事に誰をどうやって割り当てるかは、請負元企業が決めることです。
労働者の評価
請負労働者の成果に対する評価は請負元企業が行います。
客先常駐であったとしても例えば「日報を提出させる」「定例の面談をする」「注文企業の担当者から聴取する」などして、業務の遂行状況に対する評価を請負元企業が行う必要があります。
注文企業が評価を決定したり、評価内容に割って入ることはできません。
労務時間の取り決め
請負労働者が客先常駐であったとしても、労務時間は注文企業に合わせるのではなく請負元企業の指示で決める必要があります。
例えば請負元企業の始業時間が10:00で、常駐先の始業時間が9:00である場合は9:00に出社する必要はありません。
業務の性質により注文企業の就業時間に合わせる必要がある場合は、請負契約内でそのように取り決めた上で請負企業から労働者へ指示する必要があります。
また例えば緊急で休日出勤が必要になったとしても、注文企業から労働者へ命令することはできません。その場合は注文企業と請負企業で調整した上で、最終的に請負元企業から労働者へ命令する必要があります。
請負業務を独立して遂行できる企業である
2つ目です。これは指揮命令権云々以前に、企業体としてきちんとなっているべきという条件です。
資金調達ができる
事業主として責任が果たせる
「事業に必要な資金は自分たちで用意してね」「請負労働者が犯した過失は請負企業が責任を取ってね」ということですね。ここがきちんとしているかは、注文企業も責任をもって確認しておく必要があります。
業務に必要な機材は自分たちで用意する
当たり前のように感じるかもしれませんが、重要です。既に記したとおり請負業務は「成果物の提供」を目的にしており、その遂行方法は請負元企業に一任されます。そのため業務遂行に必要な設備が揃っている、必要な材料の入手ルートが確立されている、といった点が保証されていなければなりません。
「手段は後で考えます」は許されません。
企業独自のノウハウで業務を遂行できる
ここが結構分かりにくいなぁと思ったのですが、勧告の言葉を借りると「自ら行う企画又は自己の有する専門的な技術若しくは経験に基づいて、業務を処理すること。」とあります。
つまりは「単純な肉体労働や誰でもできるよ仕事で請負労働してはダメですよ〜」ということです。例えば「注文企業が用意したマニュアルに沿って作業を進めるだけ」という単純作業は請負契約的にはアウトです。
『派遣』と『請負』は実態で判断される
ここまでに『派遣』と『請負』の違い、とりわけ『請負』と判断するための基準について簡単にまとめてみました。
そこで重要なことは
ということです。
請負契約を結んでいたとしても前述の条件に反する労働が行われていた場合には
蔓延る『偽装請負』
この『偽装請負』、健全な業界の方は縁遠いかもしれませんが私が勤めるIT業界では頻繁に問題となります。
『偽装請負』とは「契約は請負であるにも関わらず、労働の実態が派遣となっている」事象、および企業がそれを意図的に実施していることを指します。つまりは請負労働者に対して注文企業が直接業務の指揮命令を出している状態です。
なぜ『偽装請負』が行われるのか。それは企業が”直接命令できる『派遣』の労働力”と”契約としての『請負』のメリット”を同時に手に入れるためです。契約における請負の主なメリットとして2点を挙げます。
残業代を支払う必要がない
請負は「成果物に対する対価を支払う契約」であるため、請負労働者がどれだけ労働したとしても注文企業が労働時間に比例した報酬を支払う必要がありません。
だから請負労働者を派遣社員のように扱うと、時間外賃金なしにひたすら残業させることができるのです。
労働者に対する責任を回避できる
派遣契約では指揮命令権が派遣先企業にあるため、派遣社員に対する労働環境の整備や業務指導・教育を行う必要があります。
一方で請負契約においては請負労働者に対する労働災害や業務指導、必要な設備の準備などは基本的に請負企業の責任となります。このため注文企業にとっては必要経費が安上がりであり、万が一労災が発生したときなども『請負契約』を盾にして責任逃れがしやすい状況になるのです。
労働者にとっては百害あって一利なし
企業が『偽装請負』に手を染める主なメリットを2つほど挙げましたが、特に注文企業(派遣先)にとってのメリットが大きい気がします。
逆にある程度の企業同士の場合、請負元企業側の受けられるメリットがそれ程無い気もします。請負元企業としては「受注競争に勝つために、偽装するメリットは少ないけど受注できないよりはまし」という理由で偽装請負に付き合う、といったところでしょうか。
しかしどんな理由があろうとも『偽装請負』は法令違反であり恩恵を受けるのは企業。労働者には害しか無いことは明白であり、許されるものではありません。
「知らなかった」では済まされない
『派遣』と『請負う』の違い、特に若いうちは「自分には関係ないかな〜」と思いがちでかもしれません。
しかし正しい認識を持ち合わせていないと、「知らず知らずのうちに『偽装請負』に巻き込まれていた、してしまっていた」なんてことになりかねません。特にあなたが使用者側(注文企業)であった場合に責任を追求される可能性もあります。
そうなる前に「あれ、これ変じゃない?」と気付くため、自分の身を守るためにも『派遣』と『請負』について最低限の理解を身につけておくことがおすすめです!
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