先日プロジェクト管理について(会社のお金で)勉強してきました。
必死に勉強する私
特に『EVM』についての説明が中心でした。
EVMは世の中に存在するあらゆるプロジェクト管理に有用な手法です。
復習の意味も込めて知らない人向けに簡単にEVMを紹介したいと思います。
EVMの概要
正式名称は『Earned Value Management』(アーンド・バリュー・マネジメント)。
1960年代にアメリカで生まれたプロジェクト管理技法。
プロジェクトの計画予算と実際に発生した費用、およびそれまでに完了した作業量を対比することで、コストおよびスケジュール実績が計画とどの程度の乖離があるのかを明確化し、最終的な推定コスト・完了時期を予測する。
……で?
EVMって何がすごいの?
「そりゃあ、みんな予算と実績の差ぐらい確認するだろ」と思うかもしれません。
ではEVMは何が便利なのか。それは、
コストとスケジュールの両面を、一度に把握することができる
それにより、
現状から将来プロジェクトがどうなるかを予測することができる
という点にあります。
EVMを構成する要素
「コストとスケジュールを一度に把握するとは?」「現状から将来を予測するとは?」
具体例の前に、EVMを構成する最低限の要素について説明します。
PV(Planned Value)
プロジェクトで予算化されたコスト。コストを単位とすることで、プロジェクトの計画を示す。
「プロジェクトが終わる時には予算を100%消化する」ということ。
EV(Earned Value)
ある時点における作業の完了値。プロジェクトで実際に作り出された価値であり、進捗の実績を示す。
AC(Actual Cost)
プロジェクトで実際の価値を作り出すまでに発生したコスト。EVが進捗の実績を示すのに対して、ACはコストの実績を示す。
EVMでは計画値(PV)、進捗(EV)、および実コスト(AC)を同一グラフ上に表示することで、進捗率とコスト効率を一度に把握することを可能とします。
EVMを作る
言葉だけではわかりづらいので、実際にEVMを示していきます。
PVとEVとACを横並びにして折れ線グラフを作れば、それがEVMです。
計画値(PV)の設定
ここに10日間、延べ300時間で完了する計画のプロジェクトがあるとします。
この計画をグラフにすると以下ようになります。
(数字は適当に累積させています。)
- 縦軸:コスト。ここでの単位は「時間」。
- 横軸:期間。ここでの単位は「日にち」。
期間が進むに連れて作業時間(=コスト)は増えていくため、PVは徐々に上がっていきます。最終的には「10日時点で消費するコストは300時間」の”予定”となります。
実績の入力
このプロジェクトが始まって4日が経ったとすると、4日時点での作業の進み具合(EV)と実際に作業に割り当てた時間(AC)が明らかになります。
例えば10日間で計画した作業のうち、全体の50%が終わっていれば「EV = 300 ✕ 0.5 = 150時間」となります。
また、ACは50%の進捗を生み出すのに実際にかかった時間、ということになります。
4日時点で実績を入力した結果、以下の折れ線グラフが出来上がったとします。
これです。これがEVMです。
シンプルですね。
EVMから分かること
では、このグラフを見て何が分かるでしょうか。
PVとEVとACの関係に着目します。
EVはPVを上回っている
EVがPVを上回っているということは、当初計画したスケジュールよりも早く作業が終わっていることを示します。
つまりスケジュールが前倒しです。
ACがPVを下回っている
ACがPVを下回っているということは、当初4日時点で予定していたコストを消費しきっていないということです。
ただしこの情報だけでは何かを判断することができません。そこでポイントとなるのがACとEVの比較です。
ACがEVを下回っている
作業を完了させるために消費した時間=コスト、つまりACはEVを下回り、さらにPVも下回っています。
これらを総合すると作業が予定よりも前倒しで進み、それにかかる時間も予算内に収まっている=高効率で作業が進められていてプロジェクトはかなり順調である、と見ることができます。
細かな数字を見なくても概要が把握できる
上のグラフを示すに当たっては具体的な進捗率、消費コストの値を挙げていません。
最終的に出力されたグラフだけを見ればそのプロジェクトの概況が把握できる
というのがEVMの便利なところだと思います。
そしてPVとEVとAC、3つの値だけを見れば進捗率とコスト率を一度に確認することができるのです。
問題を抱えているパターン
前に挙げたEVMの例は、プロジェクトがかなり上手く行っているパターンですが、実際にこんなプロジェクトはまれでしょう。
問題のあるパターンをいくつか挙げてみます。
パターン1
結論からすると、考え得る中でも最悪のパターンです。
EVがPVを下回っている
進捗が遅れていてます。このままでは納期に間に合いません。
ACがPVとEVを上回っている
これがやばい。予定通りにプロジェクトが進んでいないにも関わらず、実際に発生したコストが予算値を超えてしまっています。
このままでは納期に間に合わないのにコストも予算を超過するという、地獄が待っています。
考えられる対応
このパターンは計画期間に対する作業量が多い・人員が足りない・作業効率が悪いなど、複数の問題を抱えており早急にプロジェクト計画と体制の見直しが必要です。
ただし問題となる原因がありすぎて、スケジュールの立て直しはまだしもコストの立て直しは困難だと思われます。
コストも計画内に納めるにはプロジェクト規模の縮小=スコープの縮小をするしか道は無さそうです。
パターン2
こちらはどうでしょう。
EVがPVを下回っている
進捗は遅れています。このままでは納期に間に合いません。
ACがEVを下回っている
ACがEVを下回っていることから、高い効率で作業ができていると言えます。
考えられる対応
作業効率が良い一方で進捗が遅れているということは、現在の体制では計画内で設定された作業量を消化しきれていないということになります。
その場合は人員の追加で対応できる可能性があります。
ただし人員を追加することにより作業効率が悪化する場合、将来的なコスト超過のリスクが発生するため注意が必要です。
パターン3
続いてはこちら。
EVがPVを上回っている
進捗は計画よりも前倒しです。このまま行けば納期には間に合います。
ACがEVを上回っている
ここが問題です。進捗は前倒しですが、作業を終わらせるための時間が予定よりも多くかかっています。 このままではコストオーバーです。
考えられる対応
このような場合、作業効率が悪いことがまず考えられます。
作業の進め方をチェックして改善が必要です。
現状から将来を予測する
ここからはEVMの特徴2つめ「現状から将来プロジェクトがどうなるかを予測することができる」について、触れたいと思います。
進捗とコストの効率を測る指標
いくつかのパターンを紹介しました。他にもあるとは思いますが、概ねこんなところでしょうか。
さて、ここまで紹介してきた中で「EVがPVを上回る/下回る」「ACがEVを上回る/下回る」「作業効率が良い/悪い」などと挙げてきましたが、これらは全て「SPI」と「CPI」という指標で示すことができます。
CPI(Cost Performance Index)
コスト効率指数。プロジェクトで完了した作業について、コスト効率が良いか悪いかを以下の式で示します。
CPI = EV / AC
このことから、CPIの値によって以下のことが分かります。
- CPI < 1 : コスト効率が悪い=予定された作業に対して時間がかかりすぎている
- CPI > 1 : コスト効率が良い=少ない時間で予定以上の作業を完了している
SPI(Schedule Performance Index)
スケジュール効率指数。進捗が前倒しか遅れているかを以下の式で示します。
SPI = EV /PV
このことから、SPIの値で以下のことが分かります。
- SPI < 1 : 計画よりも作業が遅れている。
- SPI > 1 : 計画よりも早く作業が完了している。
将来を知る
「CPIとSPIって、EVMのグラフを見れば分かることだから数字で出す必要あるの?」
と思ったあなた!意味があるんです。
それが、
”最終的な推定コスト・完了時期を予測する”
という部分に繋がります。
CPI、SPIを使うことで「TEAC」「ETC」「EAC」という3つの将来的な予測値を求めることができます。
TEAC(Time Estimation At Completion)
完了期間予測。このまま進んだ場合にプロジェクトがいつ頃終わるのかを、以下の式で算出したものです。
TEAC = 当初予定期間 / SPI
例えば前述の10日間のプロジェクトで、4日時点のSPI=0.8だった場合、
TEAC = 10 / 0.8 = 12.5
となり、予定よりも2.5日遅れで納品となってしまいます。
納期に間に合わせるには作業効率を1.25倍する必要があります。
ETC(Estimate To Complete)
残作業のコスト見積り。現時点の作業進捗およびコスト効率指数を基に、今後の作業で実際に発生するであろうコストを以下の式で算出します。
ETC = (予定総コスト - EV) / CPI
例えば予定総コストが300時間、4日時点での進捗率が60%つまりEV=180時間、CPI=0.9だったとすると、
ETC = (300 - 180) / 0.9 ≒ 133
となり、プロジェクトの完了までにあと133時間分のコストが発生することが見込まれます。
EAC(Estimate At Completion)
完成時総コスト見積り。プロジェクト完了時の最終的なトータル実コストを予測します。
EAC = AC + ETC = AC + (予定総コスト - EV) / CPI = 予定総コスト / CPI
例えば予定総コストが300時間、4日時点でCPI=0.8のプロジェクトの最終的な発生コストの予測は、
EAC = 300 / 0.8 = 375
となり、差し引き75時間分のコスト超過が発生すると予測できます。
コスト超過を許容するか、プロジェクトの体制・計画の見直しをするか、といった判断基準となります。
EVMにおける注意点
紹介してきたように、EVMはプロジェクトの現状把握・将来予測をする上で有用な手法です。
ただし、注意点もあります。
PV・EV・ACの単位を揃える
EVMの縦軸は「コスト」となります。
PVとACは分かりやすいですが、EVは進捗”率”となるため注意が必要です。
例えばEVに”20%"のように、単純な”率”を入れるのであればPVとACもそれに合わせてコストのパーセンテージを入れる必要があります。
反対にコストを「時間」や「金額」といった、直接の単位で示すのであればEVは”PVに対する割合の時間・金額”として求める必要があります。
(例えばPVが100時間で、進捗率が20%ならEVは20時間)
EVの入力基準を定める
EVについてもうひとつ。
PVとACはコストの値なので、基本的に算出することが容易です。
それに対してEVは、あくまで”率”であるため算出が難しい。
そのままでは「どこまで行ったら20%?50%?80%?」というように、作業する人によって判断がかなり異なってしまいます。
進捗率を測るために、以下のような方法が取られています。
作業に重み付けをする
例えばプログラム1本あたり「設計完了までいけば30%、コーディングが完了すれば60%、単体テストが終われば100%」といった感じで、タスクごとに率を決めて入力する方法。
作業の「開始」と「終了」で固定配分する
「タスクの作業を開始したら進捗率50%、終了したら100%」とする方法。
この場合、作業開始で一気に進捗が上がりその後停滞していき、終了時にまた一気に上がるというEVになりやすいので、いかにWBSを細かく作るかが大切です。
パーセント法
作業担当者の判断で率を入れる。
判断基準が曖昧な場合はほとんど当てにならない。
例えば「作成プログラム100本のうち50本終わったから50%」というように、作業が定量化できる場合にはある程度有効。
EVMは個々の問題を見つけることができない
EVMは便利な手法ではありますが、万能ではありません。
例えばあるプロジェクトのEVMがこのような場合 。
一番最初に示したものと同じで、プロジェクト全体は順調のように見えます。
しかし、個々の作業ごとに見たときの内訳が以下のとおりだったとします。
4日時点では全体で見れば進捗は前倒し(PV150に対してEV160)です。
しかし内訳上を見ると前倒しになっているのは後続作業が無いタスクB。
対してタスクAは、赤字で示したとおりEVが遅れ続けています。
このためどこかの時点で「タスクAが終わってないからここの作業が開始できない!!」となり全体進捗も遅れに転じるリスクがあります。
このようにEVMは、
トータルでの進捗・コストの実績は把握できるが、クリティカルな問題を引き起こすタスクは検知できない
という弱点があります。
クリティカルな問題を検知するには、ネットワークダイアグラムでクリティカルパスを検出したうえで、個々のタスクごとにSPI/CPIを確認していく必要があります。
管理は大変だが恩恵はある
以上、本当に簡単にではありますがEVMをご紹介しました。
私自身はシステムエンジニアで、EVMはIT界隈でよく利用されているものという認識です。
ですが、EVMはどのような業務のプロジェクトにも汎用的に使える手法・概念であり、全てではなく部分的にでも取り入れる価値があると思います。
ツールの整備であったり管理業務の増加など、大変なところもありますが規模が大きくなればなるほどその効果も大きいはず。
まずは小規模なところから、Excelでちょちょっと試してみてはいかがでしょうか。
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