同氏『魔王』の続編となる長編小説『モダンタイムス』を文庫版で読みました。
- 作者: 伊坂幸太郎
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2011/10/14
- メディア: 文庫
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続編と聞いて読まないわけにはいかないですね!!
あらすじ
恐妻家のシステムエンジニア・渡辺拓海が請け負った仕事は、ある出会い系サイトの仕様変更だった。けれどもそのプログラムには不明な点が多く、発注元すら分からない。そんな中、プロジェクトメンバーの上司や同僚のもとを次々に不幸が襲う。彼らは皆、ある複数のキーワードを同時に検索していたのだった。
感想
『魔王』の続編となります。舞台は『魔王』の50年後。
人々の行動が逐一監視されるといった「高度情報化社会」感や、
ジョン・レノンが歴史上の偉人となっていたり、「Google」が過去のものになっているなど、
「近い将来」を掻き立てるエッセンスが散りばめられています。
そして話の核を成すのは強烈な個性を持つキャラクターたち。
「プロ」恐妻家の主人公。
旦那の浮気を疑い、拷問のプロを送りつけるその妻。
死んだ真似が得意な拷問のプロ。
(主人公いわく)人格が破綻した小説家の友人。
彼らの軽妙なやり取りを楽しみつつ、シリアスで謎めいた話にハラハラしつつ、一気に読みました。
テーマは「勇気」
本作では「そういうことになっている」とか「システム」「仕組み」といった言葉が幾度と無く現れます。
複雑化しすぎた社会の中で、人はそれぞれ自分の欲のために生きている。
ひとりひとりの利害が複雑に絡み合い社会の大きな「仕組み」ができあがっていく。
そこには明確な悪者や指示者はおらず、それぞれがそれぞれの「役割」を担っているだけ。
だから、誰も大きな仕組みを変えることはできない。
全ての結末はその仕組みの中でなるべくしてなったもの。どうなろうと「そういうことになっている」。
そんな世の中で、どうしようもない巨大な仕組みを見て見ぬふりをして生きていくのか。
無謀と知りつつも巨大な仕組みに向き合い、徹底的に戦うのか。
その勇気はあるのか?
前作『魔王』でその覚悟を問うたように、本作では常に変わり続ける人の世を自分はどうやって生きていくのか。
そして選んだその道を突き進む「勇気」を持っているのか、ということを本作では問いかけているのではないかと感じました。
それを象徴するかのように、話の最後には主人公・渡辺拓海と会社の先輩・五反田は勇気をもって、それぞれ違った選択をしていきます。
普段の自分を振り返ってみると「勇気をもって」生きられてはいないですよね。体勢に流されるがまま「こんなもんだろう」「みんなそうだし」とばかり考えている気がします。
何が良いか悪いかではなく、誰もが巨大な仕組みの部品ではありつつも「自分の意志と勇気を持ってその役割をこなすこと。あるいはそれに異を唱え行動を起こすこと。それぞれが勇気をもって自分の人生を選択していくことが大切なんだ」というメッセージが込められた作品です。
魔王の続編として
『魔王』の続編となります。
魔王の感想にも書いたとおり、魔王では話がぶん投げられて終わります。
quotto.hatenablog.com
が、この作品を読んでも前回の伏線が回収されるということはありません。
ですが、作中で語られる過去の回想を読むにあたっては、前作『魔王』は必読だと思います。
潤也や犬養が何を思い行動していったのか、その背景を少しでも知っていたほうがより楽しく読めると思います。
細かいことが気になってしまう。
話の本筋には関係ないとわかりつつも、ついつい気になってしまうことが多いです。
エンジニア優秀過ぎ
先輩社員の五反田を初め、出てくるエンジニアたちが優秀すぎないか?という点。
話を見る限り主人公たちの会社は(こう言っちゃなんですが)大したことないIT会社、という印象を受けます。
それにも関わらず主人公の後輩の大石は暗号化されたコードを解析してしまうし、先輩・五反田に至っては他人の銀行口座のデータにアクセスするなど、凄腕ハッカーかよ、という有能ぶり。
まぁ50年後にはそれがスタンダードになっている可能性はありますが。
妻、恐すぎ
妻が恐ろしすぎます。浮気を(証拠もないのに)疑って、拷問のプロを旦那に送りつけてくる。
しかも妻自身がメチャクチャ強い。
こんな人間いるか?都合良すぎないか?という感は否めません。
殺される程の仕打ちを受けているにも関わらず、妻を守りたい、愛している主人公はまともに見えて実は最もヤバイ人間かもしれません。
超能力必要?
主人公は『魔王』の主人公・安藤の血縁であり、とある特殊能力を使えるのですが、能力がぽっと出過ぎる印象です。
むしろ前半から出ていた「あるサイトの占いが100%的中する」を絡ませた能力にした方が良かったんじゃ……
と、思ってしまいます。
なんだかんだ言いましたが
細かいところは多々あるものの、『魔王』から一貫した「覚悟と勇気」を投じる物語。
拷問シーンなど結構痛々しいシーンが出てくる一方、シリアスな中にも作者得意の軽妙でオサレなセリフ回しも楽しめます。
『魔王』を読んでからぜひ、一読してみてください。