映画『来る』の感想 現代社会への警告と霊能力バトルの超ごちゃまぜエンターテイメント!

映画『来る』
映画『来る』より

こんにちは。

昨年の暮れは映画『来る』を見てきました。 kuru-movie.jp

以前に映画館で予告編を見て「ホラーに見せかけた能力者バトルっぽい!」と興味をそそられまして、実際見てみるとやっぱりそんな感じでした。


もちろんホラー映画という位置づけなので霊的な怖さはあるのですが多くの問題を抱える現代社会に対する霊界からの警告という構図になっています。

本当にヤバイのは欺瞞に満ちた人間たちだよね、と。


前半は人間ドラマとホラーを上手く絡ませたストーリーを展開してこれが壮大な前振りとなり、後半に超霊能力者バトルが繰り広げられるごちゃまぜエンターテイメント作品になっています。


ということで今回は映画『来る』の感想と見どころをご紹介します。

※若干のネタバレを含みますので注意してください

あらすじ

会社員の田原秀樹(妻夫木聡)とその恋人の香奈(黒木華)は幸せな結婚式、マンションの購入、子供の誕生と誰もが羨む順風満帆な結婚生活を送っていた。

イクメン”になるべく子育てブログを始めた秀樹は、ある夜、少年の自分が赤い靴を履いた女の子に「秀樹くんも連れて行かれる」と言われる夢を見る。


そんなある日、会社の後輩である高梨から「知沙さんの件で話しがある、と客が来ている」と伝えられる。全く心当たりが無い秀樹は受付に向かうもそこには誰もいない。

その直後、突然倒れ込む高梨。彼の背中には大きな噛み傷のようなものがついていた。


不可解な事件を解明するべく、秀樹は高校時代の親友で民俗学を研究する津田(青木崇高)とともに、フリーライターの野崎(岡田准一)のもとを訪れるのだった。

キャスト・スタッフ

キャスト

スタッフ

「第22回日本ホラー大賞」で大賞に輝いた澤村伊智の小説『ぼぎわんが、来る』を原作としたホラー映画です。

ぼぎわんが、来る (角川ホラー文庫)

ぼぎわんが、来る (角川ホラー文庫)


監督は『告白』『渇き。』中島哲也。役者陣も妻夫木聡小松菜奈松たか子など、これらの映画でおなじみの面々が揃っています。

告白

告白

渇き。

渇き。

感想

社会への皮肉が込められたストーリー

映画『来る』の前半では、田原秀樹・香奈夫妻の結婚生活を通して現代社会に蔓延する夫婦や育児の問題が描かれます。


秀樹は”イクメン”を目指し子育てブログを立ち上げるも、その実態はきれいごとを書き連ねるだけで実際の家事や育児は香奈に押し付けっぱなし。

一方で香奈は押し付けられた事に文句を言えず、フラストレーションがたまり続け、娘に怒りをぶつけてしまう。


これらは今の社会で良く取り上げられる問題ですが、たとえば秀樹は見た目を取り繕ったお調子者であり、秀樹と香奈の結婚式に参列する友人たちから

「まさかあんな地味な子と結婚するなんてねー」

「いっつも良いところだけアピールするんだよなぁ」

など、私達自身が「ああ、あるある!」と言いたくなってしまうような絶妙な”嫌味”のある演出が見事でストーリーに引き込まれます。


また「女は仕事」「男は飲んで騒いでセクハラ」というザ・田舎の宴会風景は見事な胸くそ悪さです。


これらを踏まえて登場人物たちに降りかかる”あれ”のことを考えてみると、映画『来る』では現代社会で問題を抱える人間に対して、霊界が警告している、罰を与えていると見ることができます。

これは映画のようなホラーではなくても、

「心に隙を持つ人間は思わぬところで思わぬトラブルを起こしてしまう、巻き込まれてしまうという」

現実社会でも起こりうることに対するメッセージなのではないでしょうか。

音でびっくりさせる系のホラー

私自身ホラーはめちゃくちゃ苦手です。

しかし映画『来る』のホラーは大きな音で観客をビビらせるような演出が多いです。

それでも怖いは怖いですが、ホラー苦手な私でも楽しんで見れる程度なので、本格ホラーを期待して見に行くとがっかりするかもしれません。


むしろ血まみれ演出やグロテスクな描写が至るところに出てくるので、それが苦手な人にはなかなかの辛さでしょう。


しかしこれらの前半部分は、本作最大の見せ場である霊能力者バトルの壮大な前振りでもあるため、なんとか頑張って見てもらいたいところです。

これぞエンターテイメント!壮大な霊能力バトル

前半のホラーを乗り越えると、後半は壮大な霊能力バトルが幕を開けます。

松たか子扮する琴子の登場で、明らかに作品の雰囲気が変わります。


何やかんやあって各地の霊能者たちが大集合するのですが、ここが最高。


  • 大笑いしながら観光ついでに来たかのような沖縄のオバー。

  • 「誰か一人ぐらいたどり着けるだろう」とバラバラに新幹線を降りるおじさまたち。

  • 霊媒準備の様子をインスタ映えさせまくるJK。

  • カプセルホテルで神官の格好に着替えるおじさま。

  • そして沖縄のシャーマンに神官、お坊さん、果ては科学者集団など何でもありで始まる大除霊大会。


「集められし者」「なんでもありのお祭り」感が最高です。

巷では『シン・ゴジラ』と例えられていますが、個人的には『バトルシップ』を思い出しました。

シン・ゴジラ

シン・ゴジラ

バトルシップ (字幕版)

バトルシップ (字幕版)


しかし何と言ってもここでの主役は松たか子柴田理恵

松たか子演じる琴子は冷静沈着で淡々とした語り口が「明らかに他とは異なる異質な存在」として強烈な印象を与えます。凄まじい霊能力を魅せ、さらに物理的な攻撃も炸裂します。その力は間違いなく群を抜いており、作品の全てをかっさらっていきます。

そして既に多くの人が絶賛している柴田理恵の演技。その表情と出で立ちから発せされる禍々しい、いやむしろ神々しいオーラが凄まじい。こんなにも鬼気迫る演技を魅せる役者なのだと初めて知りました。映画『来る』の裏の主役と言っても過言ではありません。

役者たちの熱演

松たか子柴田理恵については既に述べたとおりですが、もう役者陣が全員素晴らしい。

妻夫木聡が演じる秀樹のニヤニヤした笑顔。見た目は好青年だけれど、中身の薄っぺらさや調子の良さ、”真面目系クズ”感がその嫌らしい笑顔から透けて見えます。

黒木華が演じる香奈の幸薄そうな感じはもはや貫禄です。そして一度ハジケてしまってからの遊び人っぷりも見事。演技の幅が素晴らしい。

岡田准一演じる野崎は見た目の野暮ったさと裏腹に、言動は非常に真人間っぽくて良い。ただ主役のはずなのに他がすごすぎて存在感が薄いのが少し残念ですね。

小松菜奈演じる真琴も最高でした。人の良さがにじみ出るキャラクターで「こいつだけは幸せになってほしい」と願わずにはいられません。


とこれらのように主要キャストの演技が全て素晴らしい。どれだけ作品に文句があっても、ここに文句をつける人はいないでしょう。

どうしても納得いかない扱いの高梨

映画『来る』は、すでに述べたとおり問題を抱えた人間たちに対する霊界からの罰・警告という見方ができます。

劇中の琴子の言葉を借りるなら「心が弱い」人々であり、罰せられるべくして罰せられます。


しかし秀樹の後輩である高梨は、秀樹の知り合いというだけで”あれ”と会話をしてしまいひどい目にあってしまいます。

それが納得いかない。確かにアホっぽいキャラではありますが、あんな目に会うほどの何かをしたとはとても思えません。

この点に関しては霊界側が無関係な人間を巻き込んでいるとしか思えず、とてもモヤモヤしました。

現代社会への批判と霊能力バトルの超ごちゃまぜエンターテイメント

以上、映画『来る』の感想でした。

やっぱり後半の霊能力バトルが期待したとおり、いや期待した以上に最高でした。これこそエンターテイメントのワクワク感だよね!と素直に楽しむことができました。


一方で前半はホラー演出もさることながら、田原夫妻やその周りの人間達のドス黒いものを見せつけられ、胸くそ悪くなります。

しかしこの前半の壮大な前振りがあるからこそ、後半の霊能力バトルが熱くなる。


中島哲也監督作品は常に社会的な問題をテーマとしています。

映画『来る』では、育児にまつわる夫婦間、ひいては社会全体の問題を取り扱っていて、”あれ”のような異界のものからの警告、問題提起なんだと感じました。

しかしそのような社会的な重たい話に終止することなく、どこからどう見ても楽しい霊能力バトルという要素を足し込み、全部入りの超ごちゃまぜテンターテイメント作品に仕立て上げています。


作品の取り扱うテーマやホラーというジャンルもあり、好き嫌いが別れやすい作品だとは思います。しかしエンターテイメントとして見ればとっても楽しい映画であることは間違いありません。

シン・ゴジラ』や『バトルシップ』に興奮を覚えた人、「能力者バトル」という言葉に反応してしまう人、エンターテイメントを求める人には映画『来る』、おすすめです!

ぜひ劇場でご覧になってください!!



現在Huluでは中島哲也監督作品の『告白』『渇き。』を見ることができます。『来る』はこれらの作品に雰囲気が似ているため、Huluで見て事前に雰囲気を知っておくとより映画が楽しめると思います。