こんにちは。
本作品は『ラ・ラ・ランド』を破りアカデミー賞作品賞を受賞しています。授賞式で誤って『ラ・ラ・ランド』がコールされたことも話題になりました。 www.nikkansports.com
私自身は『ムーンライト』について何の前情報も無く見たのですが、単純に「ここが面白い!」と言えるような映画ではありませんでした。
しかしアカデミー賞にふさわしい素晴らしい映画であることは間違いありません。
私の作文力でこの作品の魅力を伝えられるか微妙なところですが、とにかく今回は映画『ムーンライト』をご紹介します。
作品情報
あらすじ
マイアミの貧困地域で暮らす少年シャロン。学校では「リトル」と呼ばれ「オカマだ」といじめられていた。
麻薬に溺れた母親からも育児放棄されている彼は、何かと面倒を見てくれる麻薬ディーラーのフアンとその恋人のテレサに出会う。
彼らとの交流を通して「本当の自分」に気づいたシャロン。
そして10代になり、大切な人ができたシャロンの人生を狂わす事件が起きる……
キャスト・スタッフ
- スタッフ
- 監督・脚本:バリー・ジェンキンズ
- 原案:タレル・アルヴィン・マクレイニー
- 製作総指揮:ブラッド・ピット
- 音楽:ニコラス・ブリテル
- 出演
- シャロン(リトル):アレックス・ヒバート
- シャロン(10代):アシュトン・サンダース
- シャロン(ブラック):トレヴァンテ・ローズ
- フアン:マハーシャラ・アリ
映画『ムーンライト』の感想
人種、いじめ、麻薬、性的マイノリティと、映画『ムーンライト』は重いテーマで溢れています。気軽に恋人や家族と見るような映画ではありません。
しかしこの作品が訴えているのはそれらの重いテーマの問題提起や解決方法ではなく、
「本当の自分を理解してくれる人さえいれば、生きていける」
という、誰にでも当てはまる普遍的なメッセージなんだと感じました。
映画『ムーンライト』は、このメッセージをマイアミの貧困地区で暮らすシャロンの幼少期、10代、成人後の3部構成で伝えています。
本当の自分を見つける幼少期
シャロンはこの作品の中で圧倒的なマイノリティです。自分で自分が分からない小さな頃から「”オカマ”である」ことを理由に、黒人のコミュニティの中でも差別を受けています。
周りの子供からいじめられ、母親さえも麻薬に溺れシャロンを疎んでいる。
そんな幼少期に現れたのがフアンとその恋人テレサ。彼らはシャロンを否定せず、本来は親が務めるべき良き理解者となりシャロンの心を開いていきます。
特にフアンとの交流を通じてシャロンは本当の自分を、人と触れ合うことを知ります。
幼少期のサブタイトルはあだ名の「リトル」。シャロンはフアンたちによって、この悪意の込められた名前を捨て去ることができたのです。
人生を狂わされる決定的な出来事
10代になっても周りからのいじめを受け続けるシャロン。それでも彼は本当の自分をさらけ出し、良き理解者を得ることができます。
しかし、そんなシャロンの人生を決定的に狂わす事件が起きてしまい物語はより暗さを増していきます。
この辺は本当に胸くそ悪い場面でした。
しかしLGBTや人種による差別で苦しむ人達がいるのも事実。そうではなくても理不尽にいじめを受けて苦しむ人はたくさんいるはず。
劇中だけの出来事なんかではなく、この世界で実際に起きている問題であり人の人生を壊してしまう危険が潜んでいるのだと改めて感じさせられました。
自分を守るための術
物語の第3部、そこには10代の頃とは見違えるシャロンがいます。
ムッキムキの肉体に金の入れ歯。麻薬の売買で成り上がったシャロン。
10代の頃とはあまりにも見た目が違うので見ている方は非常に戸惑います。しかしこれにも意味があり、シャロンは「自分を守るため」にこうなるしかなく、また「フアンになるため」目指した姿なのだと思います。
ゲイであることを理由にいじめられ続け、ある事件をきっかけに人生を決定的に狂わされてしまったシャロン。
自分を理解してくれる、守ってくれる人は誰もいない。そう、守れるのは自分だけ。だからこそシャロンは強靭な肉体という”見た目の武器"で必死に自分を守っている。人を威圧し自分の居場所を勝ち取らなければこの環境では生きていけない。それを10代で学んだ結果が、今のシャロンの姿なのです。
また、シャロンの車のボンネットにある王冠や麻薬売買の仕事は、人生で初めてシャロンを認めてくれたフアンの姿にそっくりです。
やはりシャロンは、自分にとっての父親であったフアンを忘れることなんてできなかったのでしょう。
生きるために身に着けた術と、フアンへの想いが皮肉にも重なり合い第3部のシャロン(ブラック)を作り上げています。
本当の自分を取り戻す旅路
そうして本当の自分を隠して大人になった、第3部のシャロン(ブラック)。
物語はここからゆっくりと、しかし着実にゴールへと進んでいきます。
そう、それは
「本当のシャロンに戻る旅路」
と言えます。
幼少期のリトルがフアンとテレサによってシャロンを取り戻したように、今度はシャロンからブラックになってしまった自分をまたシャロンに戻す。
それに必要なものは、たった一人の大切な人。それだけ。
最後の最後のシーンは彼が旅路を終えたことを意味しています。また彼の目は観客に対して、
「君のゴールはどこ?」
と問いかけているようでもありました。
シャロンを通して自分の旅路を探す映画
以上、映画『ムーンライト』の感想でした。
この映画は丁寧なストーリーを楽しむものではありません。大事な場面や根拠となる話が描かれていません。だから、登場人物の考えや根拠となるものを求める人、ストーリー重視の人にとっては楽しい映画ではないでしょう。
しかしこれはシャロンの物語。
「なぜ自分がいじめられるのか」
「自分は何がしたいのか」
「なぜこんな事になっているのか」。
何もわからないまま、誰にも教えてもらえないまま戸惑いながらシャロンは生きている。
だから観客もわからなくて当然。外から丁寧に理由を教えてもらえるような環境にシャロンはいない。
その中をもがき苦しみながら、それでも大切な何かを見つけ出すのが映画『ムーンライト』。
シャロンの次は自分たち。環境は違えど自分の人生を生きるという点ではシャロンと同じです。ストーリを楽しむのではなく、シャロンを通して自分の旅路を見つめ直す、それが映画『ムーンライト』なのだと思います。
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