映画『最強のふたり』に静かに心揺さぶられる

こんにちは。

映画最強のふたりAmazonプライムビデオで視聴しました。

日本での公開が2012年なので、だいぶ前の映画ですね。公開当時から気にはなっていたのですが、6年の月日を経てようやく観ました。6年間気にし続けて観ていないって、逆にすごくないですか?

私はこの作品については事前情報を何も持ち合わせておらず、パッケージから「ヒューマンドラマでしょ?」程度に考えていました。

事実、ヒューマンドラマでした。むしろ実話が基になっているんだから驚きです。


感想は普通に、いや、十分すぎるほど面白い。笑えるし感動できるしで、エンタメ映画として文句なしです。

だけど、ちょっと思うところもありということで、感想を綴ます。(ネタバレ注意!)

あらすじ

事故で全身麻痺となり、車いす生活を送る富豪と、図らずして介護役に抜擢されたスラム出身の黒人青年。共通点はゼロ。高級住宅地とスラム、ショパンクール&ザ・ギャング、超高級スーツとスウェット、洗練された会話と下ネタ、車いすとソウル・ミュージックに乗ってバンプする身体―。二人の世界は衝突し続けるが、やがて互いを受け入れ、とんでもなくユーモアに富んだ最強の友情が生まれていく。

AmazonPrimeビデオより

  • 公開:2012年
  • 監督・脚本:エリック・トレダノ、オリヴィエ・ナカシュ
  • 出演:フランソワ・クリュゼ、オマール・シー

感想

大富豪フィリップスラム街の青年ドリス。フランスを舞台にした、人種も年齢も生活環境も全く異なる、本来は相容れないはずの2人が出会い、分かち合い、かけがえなのない絆を築きあげていくストーリー。

この話は実話に基づいています。そのバックボーンがあることで、劇中で描かれるフランスの格差社会のやるせなさを肌で感じさせ、主人公2人の絆に強いリアリティ・説得力をが備わっています。


冒頭から不穏な空気の中でカーチェイスが繰り広げられます。

「なんだ、この微妙な空気は。でも何かこいつら楽しそうだな。」

そう、楽しそう。この場面だけで2人の仲が分かる。さらにこのシーンは作品の終盤につながる場面で、不穏な空気の理由も回収されていて、ありがちだけど上手い構成だと感じました。


そこから二人の出会いへ。

スーツで革靴の白人男性の中に一人だけパーカー・ジーパンの黒人の大男。男の口から出るのは「失業手当」。話相手は秘書付きの品の良い老人。

そこから始まる軽妙にズレた会話。このファーストコンタクトが面白いだけではなく、二人が決定的に違う人生を歩んできたことを知らしめる。

「こんなに違うのに、どうやって仲良くなれるの?」視聴者は確実に興味をそそられます。


で、ここからはテンポよく、それでいてフィリップの持つ全身麻痺という障害の重さを描きながら、2人が歩み寄り、交わり、仲を深めていきます。

二人は全く違う人生を生きて来たのだけれど、それはつまり互いに違う良さを持っているということ。フィリップはお金、教養、気品を持ち、ドリスは明るさ、勇気、突飛もない行動力を持っていた。互いの持つものを提供し、受け入れることで、二人の歯車が噛み合い理解が生まれていく。この辺の見せ方がとても上手で楽しめました。

特にドリスの障害者への遠慮の無さ、劇中のフィリップの言葉を借りれば「障害者に同情していない」という姿勢。その真っ白な心はとても魅力的で周囲を明るく照らす太陽のようにも感じます。フィリップだけではなく誰もが彼に惹かれていく。

特にフィリップの誕生日会での生のクラシックを聴く→iPodからのポップミュージックでダンスの流れは、形にとらわれず楽しむことに全てをかけるドリスを象徴する、劇中屈指の名場面と言ってよいでしょう。


作品全体としては、これも実話だからこそでしょうが濃厚なストーリーがあるわけではありません。だから「涙が止まらない!!!!」とか、そういうレベルの感動大作でもありません。

でもくすっと笑えて、障害を持つフィリップの苦悩、貧困に苦しむドリスの葛藤に触れ、その中で生まれた二人の絆に静かに心を揺さぶられる。

静かで、でも熱くて、そんな自然体のヒューマン・ドラマになっています。

最初からいいヤツすぎた

と、ここまでが感想の大部分で、とても満足な作品ですが気になる点も。

まずですね「二人の絆に感動」的なことを書きました。ええ、感動です。でもね、

主人公の二人はね、最初から人間できてるんだよ。

だから絆が深まってもそれほど感慨深いものが無いんですよね。

最初に語られる感じでは、

  • フィリップ:偏屈な老人で介護者をバンバンクビにしちゃう
  • ドリス:スラムのギャング

という雰囲気なんですが、実際は

  • フィリップ:若者にもスラム出身者にも偏見が無い。ドリスには金もモノも教養も与ええる、度量のある金持ち。
  • ドリス:兄弟や義母を心配し、障害者にも偏見の無いポジティブな若者。コミュ力高い。強い。

なんです。これは後から手に入ったとかじゃなくて、最初から。人間できすぎじゃないの?


逆に言えばここまで人間できてる者同士だったから、映画化するほどの仲になれたと言えます。むしろ、

「全身麻痺で(じゃなくても障害を持っていて)お金が無かったら……」

とか、

「後戻りできないほどの犯罪に走ってしまうスラム街の若者だったら……」

とか、考えてしまいます。そういう人たちは間違いなくいるだろうし、むしろ自分がいつその立場になってもおかしくない。劇中の彼らと実在のモデルは世の中では少数派なのかもしれません。

そう考えると少し、暗い気持ちも持ってしまうようなお話でした。

邦題イマイチ問題

最後にこれですよ。ここまで書いて最強のふたりってなんやねん。確かに二人は最強なんだけれど、発想が小学生っぽくないでしょうか。


ちなみに原題はフランス語で『Intouchables』で、「触れられないもの」という意味のようです。

話を振り返ってみると、

「決して触れ合わないはずの二人が出会ったこと」

だったり、

「触れられないけど確かにそこに存在する友情」

であったり、

「他の人間には触れることのできない領域」

であったり、色んな意味に捉えることができますね。素敵やん。


そして邦題は最強のふたり』。

どうしてこうなった。



以上、映画最強のふたりの感想でした。

レビュー等を見ても絶賛が多い映画です。私が挙げた難点も含め、「アレ?」と思う人がいるのも間違いないとは思いますが、単純にエンターテイメントとしても見ても十分楽しめる作品です。


最強のふたり』は30日間無料のAmazonプライム・ビデオで観ることができます。ぜひこの機会をお見逃しなく!!