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時代の激流に抗う兄弟の物語ー伊坂幸太郎『魔王』を読みました

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先日『グラスホッパー』を読み、勢いそのままに同氏の『魔王』を購入しました。

魔王 (講談社文庫)

魔王 (講談社文庫)

実はこの作品、マンガボックスの無料漫画で読んだことがありました。

漫画では『グラスホッパー』の主人公「蝉」が出ていたので、関連する話なのかと思い購入したのですが……
実際に出てきたのは「グラスホッパー」というカクテルの名前だけで、全く別の話でした。

漫画はリミックスされた作品のようです。


あらすじ

会社員の安藤は弟の潤也と2人で暮らしていた。
彼はある時「自分の念じた言葉を他人に喋らせることができる」という"腹話術"の力を持っていることに気付く。

時を同じくして、世間では新進気鋭の政治家・犬養が注目されていた。
カリスマ性を備え臆することなく過激な発言で人々を魅了する犬養に、安藤は「独裁者」としての危機感を抱き始めていた。

感想

本作は安藤が主人公である前半の「魔王」と弟潤也の彼女・詩織が主人公の後半「呼吸」の2部構成となっています。

妙に達観していて物事を俯瞰で見がちな主人公安藤、それと対照的にお気楽で明るい潤也と詩織。
この3人のコミカルなやり取りとシリアスで不穏な話の展開がかわるがわる現れ、最後まで程よいハラハラ感で読めました。

テーマは「覚悟」

この作品のテーマは「それぞれの覚悟」であると思います。

世の中には情報が溢れ人々は翻弄され、海で溺れつつある。
その中に強い意志と覚悟を持った独裁者が現れる。

そうなった時、あなたは皆と同じ流れに乗って独裁者に導かれていくのか。
無駄とはわかりつつも、小さな小さな抵抗をするのか。
はたまた自らが「魔王」となり、世界を変えるのか。


どの道を選択したとしても、その道を貫き通す「覚悟」があなたにはあるのか?
そんなテーマを突きつけられている気がします。


それを「ファシズム」という一例で取り上げており、あとがきにもあるように政治的に何かを訴えたいわけではありません。
「政治的思想が浅い」「青臭い」などのレビューを見かけたのですが、本作においてその深さや思想はわりとどうでもいいことなので、細かいところが気になる方は読まない方が良いかもしれません。


謎解きエンターテイメントとして期待すると……

「覚悟」という重いテーマを扱う本作ですが、
安藤の持つ特殊能力や、他にもそれっぽい能力を持つ人の出現、謎に包まれた犬養という政治家、などなど、
ミステリアスな話の展開で、謎解きエンターテイメントの雰囲気があります。

だがしかし!読み終えると、伏線は投げっぱなし、謎は謎のまま、話の結末は描かれない、などなど、
謎解きを期待して読んでいる人にとっては、ある意味「最悪」の終わり方でしょう。


ですが、本作のテーマは何度も言うように「覚悟」です。
話を進める手法や展開は二の次です。


作中の安藤が発する「でたらめでもいいから、自分の考えを信じて、対決していけば世界は変わる」という覚悟。
弟潤也の「馬鹿でかい規模の洪水が起きた時、俺はそれでも、水に流されないで、立ち尽くす一本の木になりたいんだよ」という覚悟。

私自身日頃からなぁなぁに生きていて、流されています。
そんな私にとっては、彼らの言葉にハッとさせられるものがありました。


誰もが見て見ぬふりをし、流されていく今の時代。
そこに一石を投じる作品、ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。