小さな星がほらひとつ

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死んでるみたいに生きたくないー伊坂幸太郎『グラスホッパー』を読みました。

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前評判やあらすじなどはまったく知らずにKindle版を購入し、寝かせていた小説。
ようやく読み始め、一気に読んでしまいました。
感想を綴ります。


あらすじ

妻を交通事故で亡くした、元中学教師の《鈴木》。
彼は事故を起こした犯人の父親の会社へ潜り込み、犯人への復讐を策略していた。

だがそんな時、《鈴木》の目の前で犯人は交通事故に遭ってしまう。
復讐を遂げられず失意に暮れる暇もなく、これはただの事故ではなく「押し屋」と呼ばれる、交通事故に見せかけて人を殺す専門の殺し屋の仕業だと噂が流れる。
そして《鈴木》は会社からの命令で「押し屋」を探し出すことに。


「押し屋」を探す《鈴木》。
同じ時間に交通事故を見ていた、自殺専門の殺し屋《鯨》。
自由を手に入れたい、ナイフ使いの殺し屋《蝉》。


「押し屋」を巡る3人の男たちの物語。


感想

この話の主人公は3人。
気弱な元中学教師、妻を亡くした《鈴木》。
大柄で屈強な、「相手に自殺をさせる」専門の殺し屋《鯨》。
上からの命令で、ひたすら人を殺す「仕事」を遂行する、殺し屋《蝉》。


立場も境遇も考えもまったく異なる3人の登場人物、その3人の視点がぐるぐる入れ替わり話が進んでいきます。
物語の序盤では平行線を辿っている3人が、話が進むに連れじわじわと近づいていき、ついに交わる!
そこからはクライマックスへまっしぐら!


この3人、キャラが立っていて魅力的です。性格や行動も絶妙なバランス。

《鈴木》は比較的「こっち」側の人間で、「殺し屋業界」に身を置いてはいるものの、人を殺したことも無ければ
何かと優柔不断で弱気な青年。
(ただ、優柔不断と言っても自分が同じ立場だったらどうしようもないな……という場面ばかりではあります。)
そんな彼の最大の武器は「亡き妻との思い出」。ピンチになる度に奥さんの言霊が彼を勇気づけます。
ついつい応援したくなる、異様な業界おける貴重な「一般人」です。


自殺専門の殺し屋《鯨》。そもそも「自殺専門」というのがその発想は無かった!!という設定ですね。
彼の目を見た人間は、誰でも死にたくなるんです。
その発言や態度は重厚感があり、非常に不気味な存在。
読む側に「こいつはヤバイ」とヒシヒシと感じさせます。


ナイフの殺し屋《蝉》は、無慈悲な殺人鬼であるにも関わらず「うん、分かる」「お前は正しい」と思うような言動が多いです。
こんな業界にいなかったら「結構いいやつ」だったんじゃ?と思う程です。
やってることは怖すぎるけど、どこか同情したくなってしまう不思議なキャラクターです。


この『グラスホッパー』、印象に残るセリフがたくさん出てくるという点でも気に入っています。
特にタイトルにも挙げた「死んでるみたいに生きたくない」というのは、《蝉》の雇い主《岩西》がとある行動を前に放った言葉。

読み終えると主人公3人はみな「死んでるみたいに生きていた」のではないか、そして3人が交差するとき、「生きてるみたいに生きる」へ向かっていくことを示したのが、この『グラスホッパー』という小説なのではないかと思います。


小説の最後の1文もまさにそれを物語っている、はず。



「殺し屋業界」ということで不気味で怖そうな場面も多いですが、
ユーモアでテンポの良いやり取りや、非日常感溢れる「殺し屋業界」を楽しめます。
死んでるみたいに生きたくない方へ、おすすめです。

映画化もされています。併せていかがでしょうか。

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